私は、しまわれる。 季節外れの毛布も、使わなくなったおもちゃも。
大切なアルバムも、ちょっと忘れられた段ボールも。
暗くて静かな場所だけど、私は知っている。
この家族の歴史を。 この家族の“今”を。
ある日、住人さんが引っ越していった。
最後に、私の中を全部空っぽにして、 「ここ、けっこう広かったんだね」って笑ってた。
私は、ちょっと寂しかった。
でも、また始まるってわかってた。
数日後、作業服のおじさんたちがやってきた。
「この中、カビが出てますね〜」
えっ…カビ…? ごめんなさい。
ちょっと湿気、溜めすぎちゃったかも。
「中板、張り替えましょう」
「換気口もつけておきますね」
私は、少しずつ生まれ変わっていく。
明るくなって、風も通るようになって、 なんだか、ちょっと誇らしい。
そして今日、新しい家族がやってきた。
さっそく、毛布と布団がしまわれて、 「ここ、使いやすいね〜」って声が聞こえた。
私は、またしまわれる。
この家族の暮らしを、そっと支えるために。
だって私は——
押入だから🧺✨


