『静けさの中の使命』
また冬がやってくる。 空気が乾いて、暖房器具が活躍する季節。
私にとっては、少し緊張が高まる時期でもある。
この家に来て、もう10年以上になる。
天井の片隅で、ずっと見守ってきた。
誰にも気づかれない日々が続くけれど、それでいい。
それが、私の仕事だから。
でも最近、少し違和感を覚えるようになった。
センサーの反応が鈍くなってきた気がする。 電池の残量も、そろそろ限界かもしれない。
それでも、止まるわけにはいかない。
万が一の時、私が知らせなければ、誰も気づかないかもしれない。
命がかかっている。
そんなある日、家主さんが脚立を持ってやってきた。
私を見上げて、静かに言った。
「そろそろ交換の時期かな」
私は何も言えない。けれど、心の中で思う。
「ありがとう。ずっと気にかけてくれていたんだね」
数日後、新しい仲間がやってきた。
彼は最新型で、より正確に、より早く異常を察知できるらしい。
私は静かにバトンを渡した。
ありがとう。
そして――よろしくね。
……そう、私の名前は「火災煙報知器」。
静けさの中で、ずっとみんなを守ってきたんだよ。


