こんにちは。
私は長い間、この家の静かな一角で、人々の暮らしを見守ってきました。
少し古い形だけど、当たり前のように、毎日の中に溶け込んでいた存在です。
昔は何も言われなかったのに、最近は「ちょっと使いづらいね」と、そんな声を耳にすることが増えました。
体をかがめるのがつらい人もいる。小さな子どもや年を重ねた人には、特にそうだったみたいです。
ある日、不動産屋さんと作業員さんがやってきました。
「そろそろ替え時ですね」
そんな声が壁越しに聞こえてきました。
正直、少しだけ寂しくなりました。
だって、長い間ここで役目を果たしてきたから。
でも同時に、心のどこかで思ったんです。
「ああ、次の人たちにも、もっとやさしい形が必要なんだな」って。
数日後――
ガタガタ、ドンドン!。
私は静かにその場を離れ、新しい存在が運び込まれてきました。
白くて、すらりとした佇まい。
無理のない姿勢で使えるように考えられた、今の時代らしい形。
「これで安心だね」
そんな声が、どこか嬉しそうに響いていました。
私は少し離れた場所から、その様子を見守りながら、心の中でそっと拍手を送りました。
これからは彼が、この家の毎日を支えていく。
世代交代――ちょっと切ないけれど、どこか誇らしい瞬間です。
だって、私がいた時間があったからこそ、この場所は次へ進めるのだから。
ありがとう。
そして、これからもこの家に、やさしい時間が流れますように。
–この家で、いちばん静かで、いちばん正直な場所の話です。


