小さな空間の片隅に腰を据え、火を灯してぬくもりを育てる――
それが私の役目でした。
「カチッ、ゴォー」
その合図とともに白い湯気が立ちのぼり、やがて部屋いっぱいにやわらかな空気が広がっていく。
冬の凍える夜も、夏の一日の終わりも、私は静かにここで息をしてきました。
扉の向こうから聞こえる笑い声。
一日の疲れがほどけていく、あの長い吐息。
そのたびに、胸の奥がじんわりと温かくなるのです。
けれど、時代は少しずつ景色を変えていきます。
「もう少しゆったりとできたらいいね」
「準備がもっと簡単になったら嬉しいな」
そんな声が、いつの間にか増えてきました。
ある日、工事の人たちがやってきて、私のまわりを囲みました。
手際よく道具を動かしながら、これからの話をしています。
その様子を見て、胸の奥が少しだけ、きゅっとしました。
数日後――
まわりはすっかり整えられ、私の姿は静かに役目を終えました。
そして現れたのは、明るく整った新しい空間。
やさしい光に包まれ、使う人の動きに寄り添うつくり。
「わぁ、明るい!」
「これなら毎日が楽だね」
弾む声が響き、その場所は新しい輝きに包まれました。
私はそっと見守りながら、心の中で拍手を送ります。
だって、私がここにいたからこそ、この家の人たちは
‟心と体をゆるめる時間″を知ったのだから。
そして今、あの新しい空間が
‟もっと快適なひととき”を届けていく。
少し切ないけれど、誇らしい瞬間。
私は静かにバトンを渡しました。
ありがとう。そして、よろしくね。
–これは、長いあいだ暮らしを支えてきた昔ながらのお風呂設備から、
快適で安全なユニットバスへと受け継がれた、世代交代の物語です。
この家のあたたかな時間は、これからも続いていきます。


