こんにちは。
私は長い間、この家で静かに役目を果たしてきました。
誰もが当たり前のように触れ、使ってくれていた存在――
気づかれなくても、毎日そこにいるのが私の仕事でした。
派手さはないけれど、
暮らしが滞らないように、黙々と支え続ける
そんな存在です。
でも最近、こんな言葉を耳にするようになりました。
「もっと快適にしたいよね」
「せっかくなら新しいものにしようか」
ある日、聞き慣れない音が近づいてきました。
金属の触れ合う音。
何かが外され、何かが運び込まれていく気配。
私は少しだけ、緊張しました。
ここに長く居すぎたのかもしれない。
そろそろ、次の役目にバトンを渡す時なのだろうか。
やがて、白く清潔感のある存在がやってきました。
表面はなめらかで、
側面には小さなボタンが並んでいる。
水を使って、
今まで以上に快適にすることができるらしい。
人々の声が、少し弾んでいました。
「これで、毎日が気持ちよくなるね」
私は少し寂しくて、
でも不思議と誇らしい気持でもありました。
私がここにいたからこそ、
この場所は、次の世代を迎えられる。
ありがとう。
そして、よろしく。
――そう、私は
ウォシュレットになる前の、普通便座です。


