私は長い間、この玄関を守ってきました。
来訪者の気配を住まいへ届け、住む人の安心を支える――
それが、私の役目でした。
合図が鳴り、声が届く。
姿は見えなくても、声だけで人と人をつなぐことができた。
それで十分だと、私は思っていました。
けれど、暮らしは少しずつ変わっていきます。
「顔が見えた方が安心だよね」
「子どもだけでも応対できるようにしたい」
そんな声が、玄関の向こう側から聞こえてきました。
ある日、工事の人たちがやってきて、私の隣に新しい存在が置かれました。
黒くて、静かな画面。
声だけでなく、姿までも映し出すその目は、頼もしく見えました。
「これで安心だね」
「留守中でも様子がわかるんだって」
人々の表情がやわらいでいくのを見て、私は少しだけ胸がきゅっとなりました。
でも同時に、心の奥でそっと拍手を送っていたのです。
私がいたからこそ、この家は「声でつながる安心」を知った。
そして今、新しい彼が「姿でつながる安心」を受け取っていく。
世代交代――
それは、切なさと誇らしさが入り混じる瞬間でした。
私は静かに、役目を終えます。
玄関で、長い間、人の声を届けてきた–
私は、ボイスインターホン。
そして今、この家を玄関には、映る声があります。


