私は長い間、この台所で火を灯してきました。
青い炎を揺らめかせ、深い器を温め、平たい鉄板を踊らせる――
それが私の誇りでした。
「トントントン」包丁の音に続き、静かに立ち上る熱。
立ちのぼる香り、弾む笑い声、そして「おいしいね」のひと言。
そのすべてを、私は揺れる光とともに見守ってきました。
けれど、時代は少しずつ形を変えていきます。
「火がないほうが安心だよね」
「掃除も楽だし、すっきりしている」
そんな声がやわらかく台所に広がっていきました。
ある日、工事の人たちがやってきて、私の隣に新しい存在が据えられました。
黒くて、つややかな一枚の天板。
炎は見えないけれど、確かな力で器を温める――
台所は、静かな輝きに包まれました。
私は少しだけ寂しくなりました。
けれど同時に、どこか誇らしくもあったのです。
この場所で、火とともに積み重ねてきた時間があったからこそ。
これからは、新しいかたちがこの台所を支えていく。
世代交代――
切なさと温もりが入り混じる、その瞬間。
私は、静かにバトンを渡しました。
そう、私は「ガスコンロ」。
そして彼は「IHコンロ」。
火から電気へ。
この家の台所は、次の時代へと歩み始めたのです。


